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EMC試験とは?EMSやEMI、必要性や試験内容など解説
生活するうえで、いまやスマートフォンや家電製品、パソコンなど、多くの電子機器は欠かせません。
しかし、電子機器それぞれが発する電磁波により、機器は互いに電磁波の影響を受け誤作動を起こしてしまうリスクがあります。
本記事では、このような電磁干渉のリスクを評価し安全性を確保する、EMC試験(電磁環境両立性)やその規格について解説します。
EMC試験によって身の回りの電子機器の電磁的安全性は守られ、私たちは誤作動の心配なくさまざまな電子機器を便利に活用することができます。
EMC試験を検討中の方や、EMC試験に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
EMC試験(電磁環境両立性)とは?
EMC試験(Electro Magnetic Compatibility)とは、電子・電気製品が稼働中に発生する電磁波が周囲に与える影響、または周囲の電磁波から受ける影響を評価する試験です。
電子・電気製品は、稼働中に電源線や内部機器から電磁波が発生し、周囲の機器にも影響を与えることがあります。逆に、周囲の電子・電気製品からの電磁波によって、自らが影響を受ける場合もあります。EMC試験では、これらの電磁波による影響の程度を総合的に評価します。
EMC性能(電磁環境両立性)は、複数の電子・電気製品が互いに電磁的な干渉を起こすことなく動作する能力を指し、現代の生活においては非常に重要です。
EMC試験は、以下の2つの要素で構成されます。
EMS試験 | 製品が外部から電磁エネルギーを受けても正常に動作するかを評価する。 |
EMI試験 | 製品が外部へ発する電磁エネルギーが周囲にどの程度影響を与えるかを評価する。 |
現代の生活においては電子・電気製品は身の回りに数多く使用されているため、それぞれが正常に動作するためには機器同士が互いに電磁的影響を与えあわないための対策が不可欠です。
EMC試験は、便利な電子機器に溢れた生活において、電磁的に調和の取れた環境を保証する重要な試験といえます。
現代では、EMC試験をクリアすることは必須であり、多くの国や地域でEMC規制が存在しています。
規制例として、以下のものが挙げられます。これらの規制に適合しない製品は、国内外での販売が認められないため、EMC試験は国際的な市場での競争力を保つためにも重要です。
日本 | 電気用品安全法 |
アメリカ | FCC |
EU | CEマーク |
イミュニティ試験(EMS)とは
イミュニティ(Immunity)試験とは、電子機器が外部からの電磁干渉を受けた際に、誤作動を起こさずに正常に機能できるかを評価する試験です。
空間を通して伝わる電磁波ノイズ(放射ノイズ)や、ケーブルを介して伝わるノイズ(伝導ノイズ)を用い、静電気放電、雷サージ、ラジオ波、電源ノイズなどの外部からの干渉に対して、機器がどれほどの耐性を持っているかを評価します。
イミュニティ試験により、電子機器がさまざまな電磁環境下でも正常に動作し、誤作動や性能低下を起こさないかどうかを確認することが可能。これにより、製品の信頼性が確保され、さまざまな環境でも安定した動作が保証されます。
エミッション試験(EMI)とは
エミッション(Emission)試験とは、電子機器が動作中にどれだけの電磁波を放出しているかを測定する試験です。
機器が放出する電磁波が規定値以下であることを確認し、他の電子機器や無線通信に干渉しないかどうかを評価します。エミッション試験の目的は、機器が放射ノイズや伝導ノイズを発生させる際に、周囲に悪影響を与えないようにすることです。
エミッション試験ではイミュニティ試験と同様に、電磁波ノイズおよび伝導ノイズをを発しているかを測定します。
測定される電磁波の規定値は工業用途、家庭用途など規格によって異なるため、該当する規格の規定値に準拠することに注意が必要です。
EMC試験の必要性とは?
EMC試験は、多くの電子機器に支えられる現代社会において不可欠な試験です。
電子機器が動作する際、電流の周囲には必ず磁界と電界が生じるため、電磁波の発生は避けられません。
この電磁波により、多くの電子機器が同時に使用される環境下では、いくつもの電磁波がそれぞれの電子機器に干渉してしまいます。
この電磁波により、多くの電子機器が同時に使用される環境下では、相互に電磁波が干渉し、誤動作や機能障害を引き起こす可能性があります。
特に、医療機器、航空機、通信機器などの誤作動が重大な事故につながる機器においては、電磁干渉によるトラブルが人命に関わることも。過去には、電磁干渉が原因で重大な事故が発生した例もあります。
EMC試験を行い、各国の規格をクリアした電子機器を使用することで、電子機器の便利さを享受しつつも、安全で信頼性の高い現場や生活環境をつくることができるのです。
国際規格や各国の法規制により、ほとんどの電子機器が市場にでる前にEMC試験を行い、規格に適合することが求められています。
この取り組みにより、電子・電気製品は適切な電磁環境で使用され、ユーザーの安全が保証されているのです。
EMC試験の内容は?代表的な項目・種類を紹介
EMC試験には大きく分けて「イミュニティ試験」と「エミッション試験」の2種類があります。それぞれの試験項目や規格について解説します。
イミュニティ(EMS)試験項目や規格
イミュニティ試験で行われる試験項目と規格には以下のようなものがあります。
これらの試験は、機器の使用環境で想定されるさまざまな電磁干渉に対して機器が耐えられるかを評価するために行われます。
試験項目 | 試験内容 | 規格 |
---|---|---|
電源周波数磁界試験 | 電源や変圧器から発生する磁界によって機器に影響がないかを評価する。 | JISC61000-4-8 電磁両立性−第4-8部:試験及び測定技術− 電源周波数磁界イミュニティ試験 |
静電気放電試験 | 人体による静電気で機器が誤動作しないことをチェック。疑似的に静電気を放電して評価する。 | JISC61000-4-2電磁両立性−第4-2部:試験及び測定技術− 静電気放電イミュニティ試験 |
サージ試験 | 落雷による強烈な電磁界変化によって機器が誤動作しないかを評価します。模擬した電圧を印加して、サージ耐性をチェック。 | JISC61000-4-5電磁両立性−第4-5部:試験及び測定技術− サージイミュニティ試験 |
放射無線周波電磁界試験 | テレビやラジオ、携帯電話などから放射される電磁波で、機器が誤動作しないことをチェック。試験機のアンテナにより対象機器に電磁波を照射する。 | JISC61000-4-3電磁両立性−第4-3部:試験及び測定技術− 放射無線周波電磁界イミュニティ試験 |
電気的ファストランジェント・バースト | コイルやリレーの開閉による電圧変化で機器が誤作動しないかを評価する。 | JISC61000-4-4電磁両立性−第4-4部:試験及び測定技術 −電気的ファストトランジェント/バースト イミュニティ試験 |
電圧ディップ/瞬時停電 | 瞬時停電や電源故障による電圧変動で機器が誤動作しないかを評価する。 | JISC61000-4-11電磁両立性−第4-11部:試験及び測定技術− 電圧ディップ、短時間停電及び電圧変動に対する イミュニティ試験 |
エミッション(EMI)試験項目や規格
エミッション試験で行われる試験項目と規格には以下のようなものがあります。
エミッション試験は、機器が外部に放出する電磁波(伝導および放射)を測定し、その値が規格で定められた範囲内に収まっているかを確認する試験です。
規格例として、CISPR 16シリーズは、家庭用電気製品、IT機器、医療機器など幅広い分野で採用されており、それぞれの機器の用途や周波数帯に応じて規制が異なります。
試験項目 | 試験内容 | 規格 |
---|---|---|
伝導妨害試験 | 電源線や通信線を伝わって外部に発する電磁波を計測し、規格値内であるかをチェック。工業向け機器、家庭向け機器などの使用環境により規格値が異なる。 | CISPR 16-2-1「無線周波妨害波及びイミュニティ測定法の技術的条件 伝導妨害波の測定」 |
放射妨害試験 | 機器から空気中に放射される電磁波を計測し、規格値内であるかをチェック。製品から放射されるノイズが、周囲に影響を与えないように規定される。 | CISPR 16-2-3「無線周波妨害波およびイミュニティ測定法の技術的条件 放射妨害波の測定法」 |
まとめ
本記事では、電子機器の安全性や信頼性を保証するための試験である、EMC試験について解説しました。
イミュニティ試験とエミッション試験を通じて、電子機器が外部からの電磁干渉を受けず、また他の電子機器に干渉を与えないことを確認することで、ユーザーは安心して電子機器を使用することができます。
EMC試験やさまざまな規格によって、電子機器の便利さと安全性の両方が保たれ、私たちが安心して電子・電気製品を使用できる環境が守られています。