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熱衝撃試験とは?目的や試験方法の種類、温度サイクルとの違いなど解説
装置や部品にとって熱変化は大きなリスクを伴います。身近な製品であれば、基板やエンジン、半導体など実用の際に受ける熱が原因で故障する可能性は大いにあります。
製品が高度さを増し精緻を極める状況で、すでに高温多湿の夏があたり前になっている日本では、なおさら熱問題は軽視できません。
本記事では、熱衝撃試験にフォーカスし、目的や試験方法と種類を紹介しながら、同じ熱を用いた試験である温度サイクルとの違いも見ていきます。
エレクトロニクスや自動車、航空分野で広く用いられる規格も合わせて解説していきますので、ぜひご覧ください。
熱衝撃試験(ヒートショック)とは?目的など解説
熱衝撃試験(ヒートショック)は、製品や材料が急激な温度変化にどの程度耐えられるかを評価する試験です。
高温から低温、またはその逆の急激な温度変化を繰り返すことで、材料や部品の構造的な健全性や性能に与える影響を検証することが可能。この試験により、応力、亀裂、剥離、変形などの問題を検出し、製品の耐久性や信頼性を評価します。
熱衝撃試験(ヒートショック)の目的
熱衝撃試験の主な目的は以下の通りです。
信頼性の確認
製品や部品への急激な温度変化を与えることで、製品の信頼性を確保します。試験では、-80°Cから200°Cの広範囲に対応できる装置を使用し、秒単位で100°C以上の温度差を再現することが可能です。これにより、現実の使用環境に近い条件で試験を行い、製品の耐久性を評価します。
品質の保証
製品が規格や顧客の要求を満たしていることを確認するために行われます。
JIS(日本工業規格)やISOなどの国際規格に準拠することで、製品の品質を保証し、顧客の信頼獲得の基盤となります。
不具合の早期発見
熱衝撃による劣化や故障を早期に発見することで、製品開発や改良の過程での問題点を明確にし、改善することができます。これにより、製品の信頼性と品質を向上させることが可能です。
また、試験の実施においては、装置の停止が評価に影響するため、非常電源の導入などによりシステムの信頼性を高めることが重要です。
熱衝撃試験(ヒートショック)の規格
熱衝撃試験は、国際規格に基づいて行われます。本項では一般的な規格であるJIS C 60068-2-14やISO 16750-4を例にあげて解説していきます。
JIS C 60068-2-14
本規格は日本工業規格(JIS)の一部で、環境試験の一環として熱衝撃試験の方法を規定しています。この規格は国際規格IEC 60068-2-14と同一の内容を持ち、主に試験対象が急激な温度変化にさらされる際の耐久性を評価するために使用されます。
適用範囲と用途事例
エレクトロニクス | 電子部品や回路基板の評価に広く使用されています。例えば、LED基板や半田接合部の耐久性を確認する際に、この規格に基づく試験が行われます。製品の信頼性と長寿命化を保証するには必要な手法です。 |
自動車部品 | 車載部品、特にエンジン制御ユニット(ECU)やインバーターなどの評価に適用。自動車の運転中に発生する急激な温度変化に対する耐久性を評価することで、製品の安全性と信頼性を確保します。 |
ISO 16750-4
国際標準化機構(ISO)が定めた規格で、特に道路車両における電気および電子機器の環境条件および試験方法を規定しています。
ISO 16750は複数の部分で構成されており、その中の「第4部」であるISO 16750-4は、気候的負荷(Climatic loads)を対象としています。したがって本規格では温度変化、湿度、氷結などの気候的ストレスに対する試験方法が詳細に記載されています。
適用範囲と用途事例
自動車産業 | 主にエンジン部品や車載電子機器の評価に使用されます。自動運転技術に不可欠なカーエレクトロニクス製品の耐久性評価にこの規格が用いられ、急激な温度変化による部品の劣化や故障を未然に防ぐための重要な試験として位置づけられています。 |
熱衝撃試験と温度サイクル試験の違いとは?
熱衝撃試験と温度サイクル試験、どちらも同じ熱を利用した試験ですが相違点もあります。温度サイクル試験を解説することで、その違いにも言及していきます。
温度サイクル試験とは?
温度サイクル試験とは、試験対象に高温と低音の状態を繰り返し与えることで、熱膨張や収縮によるストレスを評価する試験方法です。
一般的には、温度を10℃/分程度の速度でゆっくりと変化させることが多いですが、試験対象や規格に応じて異なる場合があります。試験によっては、数時間から数日以上と長期間にわたって評価を行います。
温度サイクル試験の目的は主に以下の通りです。
耐久性の評価 | 製品や部品が長期間の使用に耐えられるかを確認します。 |
故障モードの特定 | 温度変化による故障の原因を特定し、改善点を見つけることができます。 |
品質保証 | 製品が規格や顧客の要求を満たしているかを確認します。 |
熱衝撃試験と温度サイクル試験の違い
熱衝撃試験と温度サイクル試験ではどのような違いがあるのか、本項では双方を比較しながら解説します。
温度変化速度の違い
熱衝撃試験の温度変化速度は非常に速く、一般的な試験では数秒以内で100℃以上の温度差を実現することが可能です。一方、温度サイクル試験における温度変化は比較的ゆっくりで、温度の変化そのものが数分から数十分で行われることが多く、試験全体が数時間から数日におよぶこともあります。
試験目的の違い
温度による信頼性試験という共通点のある両試験ですが、それぞれの試験には用途の違いがあります。
熱衝撃試験は、急激な温度変化による材料や製品の短期的な耐久性を評価し、応力、亀裂、剥離などの問題を早期に検出することを目的としています。
一方、温度サイクル試験は、ゆっくりと温度を変化させることで、長期間の使用による熱膨張・収縮の影響を評価し、製品の長期的な耐久性を確認することを目的としています。
熱衝撃試験の種類
熱衝撃試験と一口に言っても試験にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる方法や用途で製品や材料の耐久性を評価をしています。
ここでは、代表的な熱衝撃試験の種類とその特徴を紹介しているため参考にしてください。
湿度冷熱衝撃試験(結露サイクル試験)の特徴や規格
湿度冷熱衝撃試験、または結露サイクル試験は、試験対象を高温高湿度環境と低温乾燥環境に交互にさらすことで、その耐久性を評価する試験です。
主に結露による材料の劣化や故障のリスクを評価するために行われます。
試験では、試験対象が高温高湿度環境で結露し、その後低温乾燥環境で再び乾燥するというサイクルを繰り返し実施。この過程で、結露による腐食や絶縁破壊などのリスクが評価されます。
規格例
・JIS C 60068-2-30:温湿度サイクル試験
・IEC 60068-2-38:温湿度サイクル試験・複合環境ストレス
気槽式熱衝撃試験の特徴や規格
気槽式熱衝撃試験は、試験対象を空気槽内で急激に高温から低温、またはその逆に温度移動させることで、材料や部品の耐久性を評価する試験方法です。
この方法は、試験対象を別々に設定された高温槽と低温槽の間で迅速に移動させることにより、実際の使用環境で遭遇する急激な温度変化をシミュレートするために非常に効果的。
気槽式熱衝撃試験は、製品が温度変化による熱膨張や収縮に伴う応力に耐えられるかを評価し、亀裂、剥離、変形などの問題を早期に発見することを目的としています。
規格例
・JIS C 60068-2-14:環境試験・温度サイクル試験
液槽式熱衝撃試験の特徴や規格
液槽式熱衝撃試験は、試験対象を高温液槽と低温液槽の間で急激に移動させることで、温度変化に対する耐久性を評価する試験方法です。
液体の高い熱伝導率を利用することで、気槽式と比較してさらに急激で均一な温度変化を実現することが可能。この試験は、短時間での信頼性評価が必要な場合に特に適しており、極端な温度差による材料や部品の応力、亀裂、剥離、変形などを検出することを目的としています。
規格例
・JIS C 0025:環境試験方法・熱衝撃試験
気槽式と液槽式熱衝撃試験の違い
気槽式と液槽式熱衝撃試験は、いずれも急激な温度変化に対する材料や部品の耐久性を評価するための試験ですが、以下のような違いがあります。
温度変化の速度
気槽式 | 空気の気槽内で試験対象を移動させるため、温度変化の速度は液槽式よりもやや遅い。ただし、試験条件によって温度変化速度は調整可能です。 |
液槽式 | 高温液槽と低温液槽の間で試験対象を直接移動させるため、温度変化の速度は非常に速い。 |
試験環境
気槽式 | 空気を媒介にした温度変化をシミュレートするため、実際の使用環境に近い条件を再現しやすく、長期的な耐久性評価に適している。 |
液槽式 | 液体を媒介にした温度変化をシミュレートするため、非常に急激な温度変化を実現可能。特に過酷な温度条件下での短期的な耐久性評価に適している。 |
適用範囲
気槽式 | 主に電子部品や自動車部品、航空宇宙部品など、実際の使用環境に近い条件での耐久性評価に適している。 |
液槽式 | 非常に高い信頼性が要求される電子部品や材料の評価に適しており、特に短時間での耐久性評価が必要な場合に有効。 |
まとめ
急激な熱を短期間で与え短期的視点で製品の信頼性を検証する熱衝撃試験(ヒートショック)、ゆっくりと温度を移動させ長期的な視点で行われる温度サイクル試験。似ているようで両者には明確な違いがあります。
国際標準化機構(ISO)や日本工業規格(JIS)の定める熱衝撃試験は、試験環境は様々です。空気や液体といった媒体も多岐に渡り、こうした多種多様な規格は、製品の温度変化に対する信頼性と耐久性を高めるのには必要不可欠な試験と言えます。