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振動試験とは?目的や種類、規格、試験機の仕組みなど解説
振動試験は、製品や部品の品質向上に欠かせない試験です。
しかし、いざ振動試験を始めようとすると、規格の多さと試験方法の複雑さに驚かされることも珍しくありません。
電子部品には電子部品の規定があり、業界が違えば規格も違い、日本産業規格(JIS)以外にもISO規格(国際標準化機構)など、規格の選定だけで頭を抱えてしまう方もいるのではないでしょうか。
本記事では、振動試験の目的と種類、代表的な規格に設定値・用語まで解説しているので、振動試験への理解を深め、振動試験の全容を知ることができます。
振動試験とは?目的についても紹介
振動試験とは、その名の通り製品や部品に振動を加える試験です。製造される対象物に適した振動を加える必要があるため、振動試験の規格は数多く存在します。
例えば、電気・電子機器の振動試験であればJIS C 60068-2-6、コンテナの振動試験であればASTM D4169というように多岐に渡ります。
振動試験の目的
振動試験の目的は、振動試験を通じて製品や部品がどれだけの振動や衝撃に耐え、求められる性能を発揮できるかの検証と確認です。
実際の稼働を想定して負荷を加える振動試験では、市場に出る前に潜在的な問題点をあらかじめ顕在化させることができるため、品質・安全性の向上、製品開発のサポートには決して欠かせない重要な試験です。
振動試験の規格
市場には様々な製品やサービスがあり、同時に振動試験の規格も製品の種類や業界の拡大に伴って作られてきました。その中でも、代表的な規格10種を紹介します。
1.JIS C 60068-2-6
電気・電子機器などの正弦波振動試験方法を規定する日本産業規格(JIS)です。
JIS C 60068-2-6は、製品が特定の周波数範囲で正弦波振動に耐える能力を評価するための標準的な試験手順を規定しています。試験記号は「Fc」で、本規格は製品の耐久性と信頼性を確認するために広く使用されています。
2.JIS C 60068-2-27
JIS C 60068-2-27は、電気・電子機器の衝撃試験を規定する日本産業規格(JIS)です。
本規格では、電気・電子機器製品が機械的衝撃に耐える能力を評価するための標準的な試験手順を規定しています。試験記号は「Ea」で、電気・電子機器の振動試験において広く使用されています。
3.JIS C 60068-2-64
JIS C 60068-2-64は、電気・電子機器のランダム振動試験方法を規定する日本産業規格(JIS)です。
本規格は、電気・電子機器製品がランダム振動にどれだけ耐えられるかを評価するための標準的な試験手順を規定しています。試験記号は「Fh」で、広範な周波数のランダム振動によって、製品の耐振性を確認するために広く使用されています。
4.JIS D 1601
JIS D 1601は、自動車部品の振動試験方法を規定する日本産業規格(JIS)の一つです。
この規格では、自動車部品が実際の使用環境において振動に耐えられるかどうかを評価するための標準的な試験手順を規定しています。特定の振動条件下での部品の耐久性と機能を確認するために必要な規格です。
5.JIS E 4031
JIS E 4031は、鉄道車両用品の振動および衝撃試験方法を規定する日本産業規格(JIS)です。
本規格では、鉄道車両が走行中に発生する振動環境条件に用品が耐えられることを確認するための試験方法を規定しています。国際規格IEC 61373に基づき、日本の実状に合わせて技術的内容が変更されています。
6.JIS F 8006
JIS F 8006は、船用電気器具の振動検査通則を規定する日本産業規格(JIS)です。
本規格は、船に使用する照明・配線・船内通信器具、航海計器などの電気器具が、船舶の運航中に発生する振動に耐えられるかを確認するための試験方法を規定しています。
この規格は1979年に制定され、2019年の法改正により「日本工業規格」から「日本産業規格」へと名称が変更されました。
7.JIS Z 0232
JIS Z 0232は、包装貨物が輸送過程で受ける振動に対する内容品や包装の耐振性を評価するための日本産業規格(JIS)です。
本規格で規定している内容は、輸送中に生じる垂直振動に対する包装の耐久性を確認するための試験方法です。主に、完成された輸送用パッケージやユニットロードに適用され、内容品の保護性能を評価します。
8.ISO 16750-3
ISO 16750-3はISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が発行する規格です。
自動車の電気・電子機器に対する機械的負荷の試験方法を規定しており、自動車の電気・電子機器が走行中に受ける振動や衝撃などの機械的負荷に対する耐性を評価するための標準的な規格。以下のような試験で使用されることが多いです。
「正弦波振動試験・ランダム振動試験・自然落下試験・バンプ試験」
9.JASO D 014-3
JASO D 014-3は、自動車部品、特に電気・電子機器に対する環境条件および機能確認試験を規定する日本自動車技術会(JASO)の規格です。
本規格は、ISO 16750-3に対応しており、自動車部品が走行中に受ける様々な機械負荷、例えば振動、衝撃、落下などに対する耐性を検証するための標準的な試験手順を規定しています。
10.ISTAシリーズ
ISTAシリーズはISTA(International Safe Transit Association:国際安全輸送協会)が規定している、製品の輸送過程での安全性と保護性能を評価するための標準的な試験方法です。
ISTAの振動試験規格は、パッケージが輸送中に受ける振動に対する耐性を評価し、内容物の保護性能を確認するためのもので、輸送環境をシミュレートすることにより、パッケージの耐久性を検証します。
ISTAシリーズにはISTA 1シリーズ、ISTA 2シリーズ、ISTA 3シリーズなどがあり、それぞれが異なる輸送条件や包装方法を評価するための詳細な試験方法を規定しています。
11.ASTM D4169
ASTM D4169はASTM International(旧American Society for Testing and Materials:アメリカ材料試験協会)が定める規定で、輸送中における包装コンテナやシステムの性能を評価するための標準試験方法です。
本規格は、輸送過程で発生する可能性のある振動・衝撃・圧縮などの力を模擬し、パッケージの耐久性と保護性能を評価可能です。
特に医療機器の包装試験においては、ISO 11607と併せて使用されることが多く、FDA(アメリカ食品医薬品局:Food and Drug Administration)によって認定されています。
12.UN38.3
UN38.3はUN(United Nations:国際連合)の規制やガイドラインに沿った規格で、リチウムイオン電池の国際輸送における安全性を評価するための試験方法です。
本規格は、航空・海上・鉄道輸送中にリチウムイオン電池が発火や爆発するリスクを最小限に抑えるための試験方法を定めています。特に国際的な輸送基準として広く認識されており、各国の輸送法規制に準拠しています。
13.JEDEC JESD22-B103-B
JEDEC JESD22-B103-BはJEDEC(Joint Electron Device Engineering Council:電子部品工業会)、可変周波数振動試験により、電子部品が輸送や運用中に発生する中程度から重度の振動に耐える能力を評価するための方法を規定しています。
主に電子機器や半導体の品質保証のために使用され、信頼性評価の一環として重要な役割を果たすものです。
振動試験を必要とする業界一覧
ここでは、振動試験を必要とする業界についてまとめています。
各業界ごとに、なぜ振動試験が必要なのか、どのように役割を果たしているのか紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
自動車部品
自動車は、走行中や衝突時にさまざまな振動や衝撃を受けます。
自動車を構成する部品の一つ一つが過酷な環境下で正常に機能することを確認するため振動試験が行われます。
また、自動車部品メーカーは高温や低温、高湿度の中での悪路といった過酷な条件下での使用を視野に入れ、それらを踏まえたテストを実施。それにより、車両のパフォーマンスと安全性を最大限に引き出しています。
航空・宇宙
航空機や宇宙船は、極端な環境下で安全に機能する必要があります。
打ち上げ時や大気圏再突入時には、強力な振動や加速度が発生。機体や機器がそれらの状況に耐えられることを確認するために、振動試験が行われます。
さらに振動試験は新しい設計や素材の評価にも役立ち、航空・宇宙産業の技術革新に貢献しています。
電子機器・電子部品
電子機器は、移動中や使用中にさまざまな振動や衝撃が発生。また車載電子機器は車両の振動や衝撃に晒され、携帯電話やタブレットなどの携帯型デバイスは日常使用時にさまざまな振動を受けます。
振動試験は、これらの電子機器が耐久性や信頼性を維持し、予期せぬ故障を防ぐために不可欠です。
輸送・運搬
輸送・運搬中の貨物や、それらの輸送手段(自動車、列車、船舶、運搬装置)は運用中に様々な振動や衝撃に晒されます。
路面上の段差による突き上げ、荷物同士の接触といった上下左右前後から発生する振動と衝撃は、輸送される貨物や乗客、そして自身の構造に影響を与える可能性があります。
このような影響を調査するためにも、振動試験が必要です。
生活家具
振動試験は、家具の構造や素材の耐久性を評価し、製品が輸送中や使用中に予期せぬ損傷や破損を防ぐのに役立ちます。
家具を構成する新素材や新規構造のテスト、評価にも振動試験は必須の項目。顧客が安全で耐久性のある製品を期待するなか、振動試験は製品の信頼性を高めるための重要な手段となっています。
電池・バッテリー
電気自動車や携帯電話、航空機用の電力システムなど、多くの製品が電池・バッテリーといった電装部品を搭載しています。製品が受ける様々な環境下での振動や衝撃は、内部へ搭載された電装部品も受けることになります。
電池・バッテリーに加わった負荷が原因となる、発火や破裂のニュースをよく目にする機会もあるでしょう。
それらの安全を保障するために振動試験をはじめとした各種試験が実施され、機械部品と同等、もしくはそれ以上に電装部品に対する耐久性や安全性が求められています。
振動試験の種類
振動試験は、製品や部品が様々な振動環境に耐えられるかを評価するために行われる重要な試験です。
振動試験にはいくつかの種類があり、それぞれが異なる目的と試験条件を持っています。以下、代表的な振動試験の種類について説明します。
①正弦波振動試験
正弦波振動試験は、特定の周波数範囲で正弦波振動を与える試験です。
この試験は、製品が特定の共振周波数に対してどのように応答するかを評価します。主な試験条件には、振動の周波数範囲、加速度、速度、振幅、試験時間などが含まれます。
主な試験対象: 電子機器、機械部品、車両部品など
②ランダム振動試験
ランダム振動試験は、広範な周波数範囲でランダムな振動を与える試験です。
この試験は、製品が実際の使用環境で経験する振動に対してどのように耐えるかを評価します。試験条件には、周波数範囲、パワースペクトル密度(PSD)、オーバーオール実効値 (rms)、試験時間などが含まれます。
主な試験対象: 航空機部品、自動車部品、電子機器など
③衝撃試験
衝撃試験は、瞬間的な高加速度の衝撃を与える試験です。
この試験は、製品が突然の衝撃に対してどのように耐えるかを評価します。試験条件には、衝撃の加速度、持続時間、衝撃回数などが含まれます。
主な試験対象: 電子部品、機械部品、包装材など
振動試験機の仕組みや種類
振動試験機は、製品や部品が実際の使用環境で経験する様々な振動に耐えられるかを評価するための装置です。
これらの試験機は、振動を再現することで、製品の耐久性や信頼性を確認するために大きく貢献してきました。振動試験機の基本的な仕組みと、代表的な種類について見てみましょう。
振動試験機の仕組みとは
振動試験機は、試験対象に特定の振動を与え、その反応を観察するための装置です。
基本的な構成要素には、振動を発生させるための振動源、試験対象を固定する治具、制御システム、データ収集装置などが含まれます。
振動源は、電動式・油圧式・機械式・サーボモータ式などがあり、それぞれ異なる方法での振動生成が可能です。制御システムは、振動の周波数、振幅、加速度を設定・調整し、試験条件の厳密な管理を行います。
振動試験機の種類
振動試験機には多くの種類があります。本項では、一般的に使用されている主要な4タイプである「動電型・油圧式・機械式・サーボモータ式」の特徴やメリット・デメリットを解説します。
動電型
動電型振動試験機は、電磁力を利用して振動を発生させるもので、高精度で幅広い周波数範囲に対応可能です。
電磁コイルに交流電流を流すことで振動を生成し、制御が容易で高速な応答が可能。主に電子機器や自動車部品、航空宇宙産業などの精密な振動試験に使用されます。
動電型のメリットとしては、低周波から高周波までの広範囲の振動を精密に制御することが可能です。一方、デメリットとしては、試験機のコストが高く、電磁コイルや制御装置の高度なメンテナンスが必要であることが挙げられます。
油圧式
油圧式振動試験機は、大きな振幅や低周波数の振動を生成するのに適しており、高い荷重容量を持つため、大型試験対象物に向いています。
油圧シリンダーを使用して圧力を変化させることで振動を生成し、機械的な強度が高く長寿命です。主に大型構造物や重機、建築材料の振動試験に利用されます。
油圧式のメリットは、大きな振幅に対応し高い荷重容量を持つこと、そして長寿命であることです。一方で、低周波数に限定されることや、高度なメンテナンスが必要というデメリットがあります。
機械式
機械式振動試験機は、比較的簡単な構造でコストが低く、振動の制御範囲は限られますが耐久性があります。
回転アンバランスやカム機構を利用して機械的に振動を生成し、制御は手動で行うことが多いです。小型部品の耐久試験や基本的な振動特性の確認に使用されます。
機械式のメリットは、構造が簡単で低コストであることと、高い耐久性を持つことです。しかし、振動の制御範囲が限られることや手動制御が必要である点がデメリットとして挙げられます。
サーボモータ式
サーボモータ式振動試験機は、精密な振動制御が可能で高速応答性があるのが特徴です。
サーボモータとフィードバック制御システムを組み合わせて振動の周波数や振幅を精密に制御します。精密機器や電子デバイスの信頼性試験、微細加工部品の耐久性評価などに使用されます。
サーボモータ式のメリットは、精密な振動制御が可能で高速応答性が高いことです。しかし、コストが高く、高度な技術が必要とされるデメリットがあります。
振動試験の設定値・用語について
設定値・用語 | 補足 |
---|---|
加速度 (m/s²) | 試験対象に与えられる最大の加速度。一般的に、Gの倍数で表記。 |
作用時間 or パルス幅 (msec) | 衝撃が持続する時間。一般的には数ミリ秒。 |
パルス形状 | 衝撃の波形の形状。代表的なものには正弦半波、台形波、のこぎり波がある。 |
正弦半波 | 衝撃が滑らかな正弦波形を取る。 |
台形波 | 衝撃が一定の持続時間を持つ。 |
のこぎり波 | 衝撃が急激に上昇し、緩やかに下降する。 |
周波数 (Hz) | 振動の一秒間あたりの回数。試験で使用する周波数範囲を設定。 |
固定振動数 | 特定の周波数で試験を実施する場合に設定される値。製品の共振周波数を特定し、その周波数での耐久性を評価するために使用。 |
固有振動数 (共振周波数) | 製品が最も強く反応する自然の振動数であり、この周波数での耐久性評価は、製品の信頼性確保において重要。 |
速度 (mm/s) | 振動中の試験対象の速度。振動の周波数と変位から計算される。 |
変位 or 振幅 (mm) | 振動の最大変位。振動のピークからピークまでの値で表される。 |
掃引時間 | 試験全体の時間。特定の周波数範囲を掃引する時間を設定。 |
パワースペクトル密度 (PSD) | 周波数ごとの振動のエネルギー密度。通常、G²/Hzで表される。 |
オーバーオール実効値 (rms) | 全周波数範囲にわたる振動の総実効値。m/s²で表される。 |
まとめ
振動試験は、製品やサービスの耐久性や信頼性を評価する試験であることから、企業にとって決して軽視できません。
本記事では、振動試験について最新の情報(執筆時点)にもとづき、代表的な規格、試験機の仕組みや種類などを解説しました。
ですが、振動試験に関する数々の規格は、国や製品・サービスの多様化と拡大に合わせて、これからも改正され変化していくことでしょう。
こうした中で、品質の維持向上のために常にアンテナを張り、情報収集に努め、探求心溢れる貴方の為に本記事が少しでもお役立てれば幸いです。