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「猛暑日」の上に、新しい言葉が必要になった夏気象庁が新設した「酷暑日」と、40度がもたらしているもの


真夏の強い日差しを受けている屋外の情景。特定の製品ではなく、線路や道路といった社会インフラが熱にさらされている様子を切り取った構図で、記事のテーマを先取りする。

はじめに──40度という数字に、名前がついた

2026年、天気予報で使われる言葉がひとつ増えました。「酷暑日」です。日最高気温が40度以上の日を指します。

気象庁は2026年2月、40度以上の日をどう呼ぶかについて13の候補を示し、広く意見を募りました。寄せられた回答は47万件を超えたと報じられています。そのうえで同年4月、「酷暑日」の採用が公表されました。

それまで最上位だったのは「猛暑日」(35度以上)。この言葉が予報用語に加わったのは2007年のことです。そこから約20年で、さらに上の区分が必要になりました。

新しい言葉ができるのは、それを使う場面が増えたからです。40度は、人の体温を超える気温。呼び名がつくということは、その気温が「例外」ではなく「毎年の想定内」に移りつつあることを意味します。

では、その暑さは実際に何を起こしているのか。ここ数年の出来事を追いながら整理してみます。


気温の区分は、こうして積み上がってきた

現在の気象庁の予報用語では、気温の区分は次のように整理されています。

  • 夏日: 日最高気温が25度以上の日
  • 真夏日: 日最高気温が30度以上の日
  • 猛暑日: 日最高気温が35度以上の日
  • 酷暑日: 日最高気温が40度以上の日

区分が増えた背景には、観測記録の更新があります。国内の歴代最高気温は、2025年8月5日に群馬県伊勢崎市で観測された41.8度。記録が41.1度(2018年の埼玉県熊谷市、2020年の静岡県浜松市)で並んでいた状態から、2025年7月30日に兵庫県丹波市で41.2度、その6日後に伊勢崎で41.8度と、ひと夏に二度更新されました。

気象庁によれば、2025年夏(6〜8月)の日本の平均気温は、統計を開始した1898年以降でもっとも高くなりました。全国153の気象台等のうち132地点で、夏の平均気温が歴代1位を記録しています。


線路が止まる──鉄道の現場で起きていること

40度前後の気温は、人の体調だけでなく、社会インフラの運用そのものを変えています。分かりやすいのが鉄道です。

レールは金属なので、温度が上がれば伸びます。継ぎ目を溶接でつないだロングレールでは伸びる余地が限られるぶん、内部に力がたまる。温度が上がりすぎると軌道が横に押し出される「座屈」が起きる可能性があるとされ、各社はレール温度が一定の値を超えたときに徐行や運転見合わせを行う規則を設けています。

2025年の夏は、この規則が各地で使われました。JR西日本ではレール温度上昇に伴う運転見合わせが16件あったと報じられています。同年7月28日には富山地方鉄道で交差点内のレールが変形し、121本が運休、約4000人に影響が出たと伝えられています。線路が伸びて、電車が止まる。暑さは、ダイヤの問題としても現れています。

今年も同じことが起きています。2026年7月23日、JR東海が高山線と飯田線の一部区間で、在来線としては初となるレール温度上昇による運転見合わせを実施したと報じられました。

ダイヤの乱れは「暑さのせい」とだけ報じられがちです。しかし現場が見ているのは、気温ではありません。


鉄道会社が見ているのは「気温」ではない

同じ日射条件のもとで、外気と、金属や筐体の内側とで温度が異なることを示す断面の模式図。温度勾配を色の濃淡で表し、文字や数値を使わずに「外の気温=そこにあるモノの温度ではない」ことを伝える構成。

運転規制の判断に使われているのは、気温ではなくレール温度です。ここに、暑さを考えるうえで見落としやすい視点があります。

直射日光を受け続ける金属の温度は、そのときの気温とは別の値になります。同じ35度の日でも、日射の強さ、風の有無、レールの向きによって金属の温度は変わる。だからこそ鉄道会社は気温ではなくレール温度を測るわけです。鉄道総合技術研究所は、地理・気象データからレール温度を広域に予測するシステムの研究にも取り組んでいます。

この「気温と、モノの温度は違う」という関係は、身の回りにもあります。

分かりやすいのが駐車中の車です。JAF(日本自動車連盟)のユーザーテストでは、気温35度の炎天下にエンジンを止めて駐車した車で、車内の温度が最高57度、直射日光が当たるダッシュボードの上は79度まで上がったと報告されています。そこに置いていたスマートフォンは熱に耐えられず、一時的に使えなくなったとも記録されています。

外の気温が35度の日に、同じ場所に置かれたモノが経験している温度は、その倍近くに達することもある。屋外の機器でも、筐体の色や材質、風通しによって同じことが起こります。


電力もまた、「想定」を超えた

もうひとつ、2025年の夏から初秋にかけて起きた出来事を挙げておきます。

資源エネルギー庁の資料によれば、北海道・東北・中部・北陸の各エリアで、最大電力需要の実績が「10年に一度の猛暑」を前提とした想定需要を上回る日が生じました。北海道と東北は7月に、中部と北陸は9月に超えています。需給ひっ迫には至らなかったものの、「ここまで」と置いていた線を実績が超えた事実は残りました。

鉄道の運転規制も、電力の需要想定も、構造は同じです。あらかじめ「ここまでは起こりうる」と決めた線があり、その線の位置で備えの中身が決まる。近年の夏は、その線に近づく場面を増やしています。

気温そのものより、「何を想定して備えていたか」が問われる。酷暑をめぐる話は、突き詰めるとここに行き着くように見えます。


「どこまでの暑さ」を想定して、モノは作られているのか

同じ構造は、身の回りのモノにもあります。

車に載る電子部品を例にとってみます。車載半導体の評価規格である AEC-Q100(米国 Automotive Electronics Council が定める規格)では、動作温度範囲によってグレードが分かれています。

  • Grade 0: マイナス40度〜プラス150度
  • Grade 1: マイナス40度〜プラス125度
  • Grade 2: マイナス40度〜プラス105度
  • Grade 3: マイナス40度〜プラス85度

興味深いのは、どのグレードを選ぶかが搭載位置を踏まえて決まる点です。エンジン近傍か、エンジンから離れたエンジンルーム内か、ボディ系か、車室内か。どこに置かれるかによって見込むべき温度が違う、という前提がここにあります。

車室内は外気温よりかなり高くなる場所。だからこそ「車室内だから穏やかでよい」とはならず、独立した温度範囲が設定されているわけです。

裏を返せば、見込むべき温度は「どこに置かれるか」で決まります。外の気温から一律に決まるものではなく、置かれる場所ごとに確かめるしかない、ということです。


暑さの影響は、最高気温だけでは測れない

高温・温度の上下・湿度・振動という性質の違う負荷が、同じ対象に重なっていく様子を抽象化した図。単一の波形ではなく、性質の異なる4つの要素が層として重なる構成で、「暑さ」が複数の負荷の集合であることを、文字や数値を使わずに示す。

夏の負荷を「その日の最高気温」だけで捉えると、見落とされる要素があります。

ひとつは温度の変化です。日中に高温にさらされ、夜間に下がる。空調の効いた室内から炎天下へ持ち出す。こうした上下の繰り返しは、材料の膨張と収縮として効いてきます。レールが伸び縮みするのと同じことが、規模を変えて起きています。

もうひとつが湿度との組み合わせ。日本の夏は高温であると同時に多湿なため、材料の劣化や結露という観点から、単なる高温とは別の負荷として扱われます。

さらに、実際の環境では振動が同時に加わる場面も少なくありません。走行中の車両、屋外の回転機器のそばの装置。熱を受けながら揺すられ続ける状況は、どちらか一方だけでは再現しにくいとされています。

「今年の夏は暑かった」という一言の中には、性質の違う負荷がいくつも折り重なっています。


想定は、誰がいつ見直すのか

ここまで見てきたのは、気温そのものより「想定の置き方」が問われている、という構図でした。

鉄道は規制値を定め、電力は需要想定を置き、モノをつくる現場は使用環境の想定を置いています。環境試験の方法は JIS C 60068 シリーズなどの規格群にまとめられていて、試験温度の選択肢もそこに並んでいます。ただし規格が示すのは「試し方」と「選択肢」まで。そのうちどの厳しさを採るかの判断は、製品の側に残されています。

その想定は、一度決めると長く引き継がれがちです。前の型式の条件を踏襲する、業界の慣例に倣う——いずれも合理的な判断です。ただしそれが「どの時代の夏」を基準にしていたかは、確認されないまま残ることもあります。

もっとも、条件はただ厳しくすればよいものでもありません。過剰なら実環境で起きない壊れ方を再現してしまい、緩すぎれば市場で起きることを捕まえられない。線の位置は、用途や設置環境が絡む問題です。

確かなのは、その判断のもとになる「外の環境」が動いていること。用語が一段増えたという事実は、その変化を誰の目にも分かる形で示しています。


参考情報


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